溺水(できすい)に注意しましょう(医長が教える子どもの健康 2018年8月号) |
溺水(水におぼれること)による溺死(できし)は、こどもの死亡事故として窒息(ちっそく)に次いで多く発生しています。
世界中で1分に1人溺死者が発生しているといわれています。また、5歳未満の溺死者が全溺死者の40%近くを占めます。また、男の子の方が女の子よりも多く発生します。
こどもの溺死の主な発生場所は、家庭やプールですが、1歳未満の乳児では家庭内が主です。
全溺死のうち半数は浴槽で起こり、4歳未満では最も多い溺死の場所です。浴槽に水を貯(た)めたままにしておくことが問題です。
また、プールや浴槽の中には、吸引装置が付いているものがありますが、こどもの髪の毛や、衣類や身体の部分が捕えられてしまって、こどもが浮き上がられなくなってしまう可能性があります。
さらに、こどもは、バケツ、トイレ、洗濯機、台所の流しなどでも溺死する可能性があります。
幼児はこれらの水が入ったものの中へ頭から落ちると、自力で脱出することができません。これは、幼児期は重心が頭方向にある上に、容器をひっくり返すほどの体重がまだ無いことによります。
こどもは溺れたら必ず助けを求める思われがちですが、実際には大部分のこどもは溺れても助けを求めず、無言のまま溺死します。助けを求めたとしても、溺れる直前に10-20秒程度もがくだけです。また、溺れかけているこどもが息をしようとする努力やバチャバチャと音を立てることが、近くにいる大人には単に遊んでいると思われてしまう可能性があります。
溺れた状況を理解できなかったり、呼吸に精一杯で声を出す余裕もなかったりするために、静かに溺れると考えられています。このことを「本能的溺水反応」といいます。
ヒトは溺れると低酸素になり、心臓が止まります。
ヒトのすべての臓器は低酸素によって障害を受けますが、なかでも脳が特に敏感です。低酸素の状態が3~5分以上続くと不可逆的な脳の障害が発生する可能性があります。
米国での調査によると、溺水時間が5分未満であった小児の91%は、障害なく生存したか軽度の神経障害を残すのみでしたが、溺水時間が10分を超えた小児の93%は、死亡したか重度の神経障害が残ったそうです。
こどもは静かに溺れることがありますので、入浴時はこどもから目を離さないようにするべきです。
こどもが、プールに入るときは常に大人の監視が必要です。乳幼児からのスイミングが溺死を減らすという根拠はなく、泳げるこどもでも泳ぐときは大人が目を離さないようにするべきです。
また、こどものいる家庭では、浴槽、バケツなどに水を貯めたままにしたり、水洗トイレのふたや洗濯機のふたなどを開けっ放しにしたりしないようにしましょう。