子育て応援ひろばすかりぶ

“子育て応援ひろば すかりぶ”は、「体験しながら学ぶ」情報を発信し、
横須賀で子育てをする皆さんをまちぐるみで応援します。

赤ちゃんにとって抱き癖の指摘は、将来の人間関係に影響する?(医長が教える子どもの健康 2020年3月号)

抱き癖がつくから抱いてはいけないの?

出産後のママは、家事に育児に忙しい。赤ちゃんは泣くのが仕事で、泣きは場所と時間を選びません。泣くのは意思伝達の手段であり、心肺機能を高める機能でもあります。泣き出したら、「抱き癖がつくから抱いてはいけない」という忠告。一方、泣かせていれば、「おっぱいが足りないのよ。赤ちゃんがかわいそう」

抱き癖とアメリカの女性解放運動

抱き癖の指摘は、1960年代後半にアメリカから始まりました。小さい時から自立心を育てる考え方で、ウーマン・リブと呼ばれた、女性の解放運動とも関係しています。女性の社会進出を助けるため、子供の自立心が必要とされたのです。ほどなく、我国にも伝わりました。ところが、抱かれずに育った赤ちゃんが、10歳前後となったアメリカで、困ったことが起こったのです。強い不安感で、人間関係が困難な子供。周囲に無関心な子供が増えてしまいました。

ヒトは生理的早産

赤ちゃんと他の大型哺乳類が、出生した時点と比べると、約1年の発達の差があります。
出生時の赤ちゃんは、目も耳も十分に発達していないし歩けません。ヒトの赤ちゃんの始歩は、ほぼ1歳。よって、もう1年くらいママの胎内にいなくてはならないのです。何故、ヒトは他の大型哺乳類に比べ、生理的早産なのでしょうか? 何故なら直立2足歩行で、ママの骨盤が変形し産道が狭くなってしまったからです。胎児の頭蓋骨が大きくなり過ぎると、産道を通り抜けられません。直立2足歩行で、ヒトは脳を発達させました。また、直立2足歩行で生理的早産となり、脳がまだ充分に成長しないまま、ヒトの赤ちゃんは外界へ放たれ、その外界の刺激が脳の発達にいい影響を与えるのです。但し、これには大前提が必要であり、それは保護者から生命安全を保障されることです。

赤ちゃんはハグを求めている

ですから赤ちゃんは生まれてからも、布団の中に寝転がらされているより、ママの腕に抱かれたがります。ママの体温による温もりと、腕による囲みにより、胎内にいる時の環境が疑似的に体験出来るからです。ヒトは、安心感や信頼感が得られると、「オキシトシン」というホルモンが分泌されます。これは「幸せホルモン」とも呼ばれる物質で、特に「自分は愛されている」と実感した時、オキシトシンは神経細胞で作られ、脳組織から血液を通して全身に行き渡るのです。たくさん抱っこされた子は、体内にオキシトシンが多いという調査結果があります。カリフォルニア大学の調査によると、オキシトシンの少ない女性は、多い女性に比べて結婚率が低く、さらに離婚率は約2倍高いという結果が報告されています。

抱かれると、渡る世間に鬼は無し

最近の育児の考え方は、抱っこされたり、ママから色々な世話を受けて、身体的にも心理的にも欲求を満たされた赤ちゃんは、「わがままになる」ということはなく、逆に十分なスキンシップによって得た、安心感や信頼感が、自立して世の中を探求して行くための、基盤になると考えられています。赤ちゃんが将来に渡って人を信頼し、自分の要求と他人への依存のバランスを、うまく取ることが出来るのです。只、「泣かせてはいけない」と、神経質になり、先回りして抱いてしまうのは良くありません。繰り返しますが、泣くのは意思伝達の手段であり、心肺機能を高める機能です。赤ちゃんの要求が叶えられるから、ママへの信頼感が獲得出来ます。何事も適度であること(中庸)は難しくなってしまうようです。